全米大会

全米居合道講習会・大会・審査会及び杖道ワークショップが終わりました。
今回私にはそれなりに野望があったのだが、それは中途半端に膨らんだ風船に針を刺したようにひゅるひゅるとしぼんだ。
勢い良くパンッ!と砕けたのならまだ気持ちよかっただろう。
ひゅるひゅるだったのには訳がある。

最初の二日の講習ではカナダの合宿同様調子に乗っていた。
二段以下のクラスを担当された、これでお会いするのは三度目のY先生に「特に伸びた2名」の一人として名指ししていただいた上に、次の審査が受けられるまでにまだ二年あるのに「切っ先が下がるのからそれを気をつけて稽古しなさい。それさえすれば三段は一度で通る」と言って頂いて、よっしゃ、と思った。

大会の朝にいきなり凹む。

トーナメント表を見たら、初戦がいきなり手ごわい相手であった。
ひゅるひゅるひゅる…
無理…
つうか、無理…

いやいや違うだろ、そういうことじゃないだろ、自分のできる限りの居合をするのが筋だろう、と気持ちを切り替えようとした。
午前中だと思っていた対戦はスケジュールの都合で午後になり、会場に立つまでにはなんとか「自分の居合を抜くだけだ」という気構えを幾分は取り戻せた。
幾分。

直前に特に礼法で兄弟子に注意されていたことがふたつあって、
そこはちゃんと覚えていてきちんとできた。
大きな失敗もしなかった。
でも試合には負けた。
審判は三人とも対戦相手に旗を上げた。

道場の先生の一人が来て、「あなたを誇りに思うわ、SK先生もそう思われているはずよ。」とおっしゃった。
私は中途半端な笑みを浮かべてお礼をいいながら、「どうして?」と思った。
試合に負けたからではない、試合になる前に負けていたことが自分でよく判っていたから。

日本から来られているこの合宿の講師長のCK先生が休憩時間中に通りかかられた。
「お前さん、今日は自信がなかったね。」
!!!!!
CK先生には去年、今年とカナダ・全米の合宿両方でご指導いただいた。
ところどころ通訳をさせたいただいたおかげで顔も覚えていただいていた。
それにしても、それだけで自信のなかったのを見抜かれた、そのことに驚きと、一種の強い喜びを感じた。
判っておられる。
先生には何でも見える。
「お前さん」という暖かく親しく聞こえる呼びかけも嬉しかった。
それから先生は、手の内のコツを短く伝授してくださって立ち去られた。

その日、後でまたお会いしたとき、CK先生に見抜かれていて驚いたこと、
試合の前に気持ちが負けていたことを告白した。
先生は笑って、「そういうね、人を見る眼だけはあるんですよ。」とおっしゃった。
そうおっしゃる先生に惚れ直した。

全米の大会では二段三段が同じグループになる。
あとで、私の対戦相手が翌日の審査で四段に通ったことを知った。
私の道場の指導者の一人はそれで私を慰めようとして下さったが、
私にとってはそういう問題ではなかった。
私にとっては問題は、試合に負けたことよりも、相手が強いと思ったことで自分の気が負けた、という事実だったから。

気が負けたのはなぜか。

このごろあちこちで褒められて調子に乗っていたが、それはあくまで去年のへたくそさに比較してのことに過ぎない。
先生に言われたところを覚えていてきちんとできた、というレベルではだめなのだ。
カラダが勝手にやる、ところまで稽古しなければ。
今回の対戦相手が来年は別グループだからといって、来年は安心だということでもない。
現に初段二段のクラスに三人ほど、これは手ごわい、と思う人がいた。
来年の大会までに、相手のことなどこれっぽっちも思わずにただ自分の演武ができるだけの稽古を積まなければ。

世界は広い。
また井の中の蛙になるところだった。
こうして色んなところから人の集まる合宿に来ると毎度目が覚める。



さて、ここからは少々濁った話。

私が今の道場に入門させていただく過程には、実は醜い過程があった。
居合を始めてから2-3年経って剣道を始め、もとの居合の道場のあれこれに疑問を持ち始めた私はその道場を去った。
居合は、剣道の道場で先生から許可を得た時間を自主稽古にあて、あとは剣道の先生とつながりのある近隣の剣道道場によその居合の先生が来られるセミナーに時々参加させていただいていた。
審査を受ける前、その居合の先生は、セミナーに来るものは居合の先生の道場に全員正式に登録するように、とおっしゃった。それはおかしいと感じた剣道の先生方は、自分たちの生徒を登録させることはしなかった。

その居合の先生を初めて知ったのは何年か前のある合宿でのことで、そこで私はその先生に余りいい印象を持っていなかったが、この時々参加するセミナーでの先生のクラスは決して嫌いではなかった。
第一印象はあてにならないのかな、と思ったりした。
一方で、時々へびに絡まれたような妙な感じを受けることがあった。
「最初から誰の生徒かはっきりしておかなければいけない、じゃないと後になって誰が誰を盗んだという話になるから」

盗む?

さて、そのまた1-2年の後。
私は全米大会である人の演武にひどく感銘を受けた。
この人のことは実はその二年前の大会で初めて見たのをはっきり覚えていた。
はっきり覚えていたのは、彼の演武に感動したのでわざわざ本人にそれを伝えに行ったからだ。
その後その人のおられる剣道・居合の道場には、私の剣道の先生と度々訪れる機会があって、剣道でも何度かご指導を受けたし、その道場の夏の合宿にまで参加したが、余り話をする機会はなかった。
このときの大会では、私は初めから彼を四段以上の勝者候補としてずっと追っていた。
誰に候補だと聞いたわけではない、ただ二年前の記憶で強いと知っていたから。

彼は大会に優勝した。
四段に通ったばかりで、五段も六段も全て制して。
すばらしく冴えのある、私には完璧に見える、丹精な居合だった。

その日のうちに私は、この人の師であるSK先生に入門を乞うた。

私がSK先生の弟子になることについて、前の道場を去ってから何度かセミナーに参加させていただいた居合の先生の反応は私の想像も理解も超えるものだった。
詳しい話はここでは控える、ただ、直接攻撃されたのは台湾人の私の剣道の先生で、「あなたは日本人ではないから日本の武道のマナーは知らないんだろう」という趣旨の大変失礼なものだった。
私は日本では武道を学んでいなかったので、もしかするとこの先生のおっしゃることが正しい可能性は否定できなかった。
日本で武道を学んでいた友達数人にそっと相談すると、全員が「その先生の言っているのは日本の武道のマナーではない、先生自身が思い込んでいるルールに過ぎない」と答えた。

それ以来、どこで会ってご挨拶しても、この先生は私を全く無視した。
挨拶は返さず、まるで私が眼に入っていないという態度で通り過ぎた。
それで私が傷つくと思っておられるなら気の毒なことだと思った。
この先生についての第一印象を思い出した。

第一印象は、結局正しい。
恋愛関係でも同じことだ。
付き合い始めてから問題になることは、大抵第一印象で「あれ?これってちょっと…」と思いつつ、
お付き合いをしたい欲求が勝って考えないようにしたことだったりするものだ。
(え?違う?私はそうです。)

で。
今回の合宿で殆ど1年ぶりにこの先生に再会したのだが、扱いは同じだった。
ご挨拶しても全くの無視。
だからさ。
申し訳ないけど傷つかないから。
むしろ自分はきちんと挨拶しようと思うだけだから。

その風景が、大会のあとに若干変わった。

私がその先生のセミナーに通っていたころに、私の弟分が一緒に居合のセミナーに通っていた。
彼が最後に参加したのも、私のそれとほぼ同時期だから、1年以上彼はその先生の指導を受けていなかった。
彼は今回、無段者のグループで入賞した。
大会の後、その先生は急に弟分と私に話しかけてきた。
「私の道場のグループで写真一緒に撮りましょう」
私が戸惑っていると、「今忙しい?」と言って、弟分だけを連れて行った。
挨拶しても無視してたのに、急に一緒に写真?
丁度よく件の兄弟子が「先生方にご挨拶に行こう」と私を連れに来たので、引っ張られていく弟を後に私は去った。

弟分は後で、「ものすごく気持ち悪かったんだけど…」と言った。
私は私で、その先生の急な態度の変化が気持ち悪かった。
兄弟子に、これどういうことだろう、とそっと話すと、
「気にするな、もう過ぎたことだと思えよ、稽古だけに集中しろ」と言われた。
全くその通りだ。

後でふと思った。
その写真はおそらく、その先生の道場のサイトに掲載される。
弟分の持っているトロフィーは、先生の教え子のトロフィーとしてみる人の目に映るのだ。
トロフィーを持たない私に価値はない。
だから弟分を確保したあと、先生はあっけなく「今忙しい?」と私を手放したのだ。

賭けてもいい、次にすれ違うとき、この先生はまた私を無視するだろう。



SK先生も、CK先生も、H先生も、私は剣の腕もさることながらそのお人柄にほれ込んでいる。
CK先生はおっしゃった。
指導者として、また審判としての資格は、自ら形が正確にできること、理合がわかっていること、また、公平であること。
公平さは私が最も苦手とするものの一つだ。
後輩についてこいつダメだ、という先入観をもつと、それが払拭できないまま他の判断をすることが多い。
それはまさに、この居合の先生の傾向ではないのか。

この先生のようになってはいけない。
CK先生を、H先生を目指そう。

居合とは、何か。
刀だけ抜けてもダメだ、

というのが、ただぼんやりと見えてきた、
私のゴールの灯りの一つだ。







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剣祐

Author:剣祐
剣の修行中。

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