走る

ごく最近、走り始めた。

長いこと走る走る詐欺で、ランニングシューズなんかもう2年だかもっと前だかに買っていたのだが、
どうも踏み切れず。

いや、違うな、一度試みたのだったか。
自分の体の重さにおどろいて、すごい息切れとよれよれの前傾姿勢で戻ってきて、
万歩計を見たら1マイルも走っていなかったときの、あの衝撃。

トレッドミルでは数マイル行けるのに…。

トレッドミルでは体を自力で持ち上げているわけではないのだ、
とういことを悟ったあの日。



数ヶ月前から剣道になかなかいけなくなり、
日本に遊びに行って美食をむさぼって余分な脂がつき、
4歳の姪に後ろから抱きつかれて
「おばちゃん、ふわふわ~」と言われた日にはアナタ。
「次に会うときまでにふわふわじゃなくなってるから!」
「無理だと思う~。」

ちくそー、痩せてやる。笑

おりしも年で一番きつい剣道・居合の合宿が控えている。
今からコンスタントに走れば、その頃には持久力も少し改善しているのではないか。
ていうか
痩せることよりもそっちの方がむしろ大事じゃないか。

これまでにも、ランニングが剣道の助けになるんじゃないかと何度も思いながら踏み切れなかったのは、
子供のころから走るのが大嫌いだったからだ。
そこにあのトライの苦い敗北。
やるのなら、続くやり方でないとだめだ。



私の家から走り出すと、どの方向に行っても大体上り坂、という落とし穴があって、
大体でだしでへばるのは前回の敗北でわかっている。
1マイルも走れなかったのだ、今回もそんなもんだろう、坂はもうなるべくゆっくり行こう。
くらいの低い期待で出発した。
うん、体重い。
上り坂はやっぱりきつくて、歩くのと変わらない鈍さなのに2ブロックほどでもう息切れした。
しかしこの方向に行けば、登りは最初だけだ。

坂を上り切ってしばらくいくと、突き当たりに墓地がある。
大樹の沢山植わった美しい静かな墓地で、
(墓地は大体静かなものだが - かつてのハウスメイトはこの墓地を"Quiet neighborhood" と呼んでいた。
quietじゃなかったら怖い。)
時々犬の散歩や自分の散歩、それにたまにサイクリングをしている人がいるくらいだ。
つまり、自分がよれよれのぜろぜろになって脚を引きずっていても余り人に見られないというメリットがある。
その代わり倒れていてもなかなか発見されないと思われるが、それは考えないことにした。

丁度よく短めのサークルを何周かする。
脚は重い。
脚って重いんだな。
脚が。
とにかく脚の重さ以外何も意識できない。
今日はこの辺で限界、まだ家までの戻りもあるし、と引き返して家で万歩計を見たら、
わずかに1マイルを超えていた。

ふっ、やっぱり1マイルか。
でも前よりはちょっとまし。



それからちょっとずつ周数を増やして、今のところ大体2マイルを毎日走っている。
音楽などは聴かないで、黙って走っている。
別に哲学的な理由はなくて、大昔のしょぼいiPod Shuffleしか持っていないからだが、
走りながら体を意識したり、つらつら考え事をするのはなかなか良い。

脚は今も重いが、脚が重いものである、ということに慣れた。
走っているうちに尻にも背中にも余分な重みがついていることが意識される。
とれろとれろ、と思いながら走ったりする。

風が吹いていると耳の横をひゅんひゅん空気が通る音がする。
水の中にいるみたいだと思う。
姿勢を正す。
汗だくになるのは剣道で慣れた。
首に巻いてTシャツの襟につっこんでいる手ぬぐいでたまに拭く。
それくらいの動作で呼吸のリズムが崩れるのでなるべく汗は流しっぱなしにしておく。

たまに、あれ、なんだこれ、結構楽しい、という瞬間が来る。

そういう時思う。
子供のころの自分を応援しに行きたい。
運動全般が、とくに走るのが大嫌いで、
マラソン大会なんか(多分1キロかそこらだったと思うのだけれど)どうやって仮病で休むかしか考えなかった。
寒空の中走れば必ず喘息発作を起こすのもいやだった。
大丈夫、走れるよ。
ゆっくり行けばいいんだよ。
一緒に走るから、行こう。
彼女にそういってやりたいと思う。
運動って楽しいと思えるきっかけをどこからももらえなかった彼女を気の毒に思う。
その分も、今から取り戻そう。



秋までに少しずつ距離を延ばして、5Kか10Kにエントリーしようと思っている。
そういう大会に出ている女友達が何人かいるので、一緒に行こう。
いずれはハーフマラソンを目標にできるかな。
できるかもしれない気がちょっとしてきた。



そんなわけで、しばらくしたら「ほぼ剣士、時々ランナー」というタイトルに変えようかと思っています。
続いたらな。

全米居合合宿

全米居合合宿に出かけてまいりました。
今回日本からいらっしゃるのはY先生とT先生。
Y先生は今年で6回目の連続訪米、75歳にして、うちの兄弟子に言わせると「毎年若返る」パワフルな先生です。

講習の初日は気合の話で始まった。
前日のウェルカムパーティーのときに、兄弟子とY先生と話していて、
私の剣道の気合が猫みたいだ、という兄弟子の評がY先生にばれたために、
「気合の由来がわかっていれば猫みたいな気合が出るはずがない。よし、明日は気合の話から始めよう」と。
参加者のみなさん、なんだろうと思ったでしょう、そういうことだったんです。
(参加者誰も読んでないと思うけど。)

制定居合の細かな決まりうんぬんよりも、とにかく大きな斬りを、実践に意味のある動きを、ということが印象に残った講習だった。時には木刀と竹刀で、実際に横からの敵をかわす事ができているか、という稽古が入ったりした。
これは全員ではなく、Y先生がピックアップした数人に竹刀でかかっていくという方式だった。
「できないもの同士でやると大怪我しますからね。」そりゃそうだな。笑

大きく頭上に振りかぶり、かつ切っ先を下げずに斬る、という話を説明するために、Y先生はその場で一番重い刀を選ばれた。持ち主はうちの先輩Aだった。
重い刀を遣えば、自然と振りかぶりの姿勢は正しくなる、というのがY先生の論だ。
この講習のはじめから最後までY先生にひっきりなしに前に引っ張り出されて「かわいがられて」いた兄弟子が注意されていたことの一つが、振りかぶりが小さい、ということだった。
Aが、「この重い刀、僕が譲り受ける前は兄弟子が使っていたんです。SK先生から兄弟子に、それから僕に来たんです。」
えっ。笑
Y先生「その刀に戻せ。」

笑ってる場合じゃない、私も切っ先が落ちる癖があるのだが、私の刀も前のものより大分軽いのだった。
Aに「後でちょっと振らせて」とそっと耳打ちした。



厳しい場面もいくつかある合宿だった。
六段全員に演武をさせて、「そんなことで指導ができるのか」と叱咤された後、今度は五段の演武を六段に批評させた。
六段の先生方は、批評は結構Y先生の納得されることをおっしゃる。そこを先生はさらに「指摘はできている。指摘できても自分がきちんと演武できていなかったら意味がない」と。

「先生病」という言葉を何度も使われていた。

すなわち、五段なり六段なりで自分が地域のトップで(日本では通常もっと上位の先生がおられるだろうが、アメリカではこういうことは多い)誰も間違いを指摘してくれず、変な癖がついてくること。
この話で癖を指摘された先生の一人は、あとでSK先生に指導を乞われたそうだ。その先生のところからうちの道場は相当遠い。にもかかわらずご自分に必要なことを悟られてこられる決意をされたことに尊敬の念を持った。



私は今年は審査の対象ではないため、例年審査をとりしきっておられるP先生から、あらかじめ審査お手伝い要員として雇われていた。
P先生は流派の違うご近所の道場の先生だが、ほぼ毎週うちの道場に稽古に見えているので私のこともよくご存知だ。

朝一番に受付係に指示を与えた後、「あなたは私と一緒にいらっしゃい」と連れて行かれた。
審査前の刀の点検の見習いを仰せつかったのだった。
見るべき点(鍔はゆるくないか、目釘はしっかり入っているか、柄糸は緩んでいないか、のほかに、刀のそりの見方、重さのバランスの見方など、直接安全に影響するというよりは自分が刀を選ぶにあたって参考になることも織り交ぜて)を一つ一つ説明しながら点検をしてみせて下さり、さらに私にも全部の刀を持たせて練習させて下さった。

刀の点検は高段者の役目なので、私などが実際にすることになるのはずいぶん先の話だ。
にも関わらずこういう教育機会を見つけて与えて下さる。優れた指導者だと思う。
P先生は冗談半分に「手伝いを引き受けたりするからこういう目に逢うのよ」とおっしゃっていたが、貴重な機会でありがたかった。



今回審査は受験者が少なかったためもあって、日本からの先生方がおふた方とも最初から審査員として参加されていた。
厳しい審査だったと思う。
四段が8名だか9名だか受験して一人しか通らなかった。前出の重い刀のAも数秒時間オーバーで不合格。
最初の帯刀で手間取ったのが原因で、彼は形はしっかりしているので口惜しいところだった。
帯刀で手間取る、というのが、いかにも私もやりそうなことなので見ていても冷や汗をかいた。
本人は後で「いままで不合格なしで来たから、これはこれでいい経験だと思うよ。」と言っていたが。

六段は四名受験してうちの先輩が一名合格。
不合格のうちの一人は近所の道場からSK先生の教えを受けるために熱心に通っておられた先生で、今回は通られるのではないかと思っていたので本当に残念だ。

そういう、大変に惜しい不合格者がいた一方で、私などが見ても「え?」と思った受験者がいたのも確か。
その段位でその所作…?だとか、制定居合のきまりごとができていないとか、私のレベルのものが見てもあきらかだというのは、ねえ。

って、いつか言われないように自分も気を引き締めて稽古しなくちゃ。


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剣祐

Author:剣祐
剣の修行中。

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